[レポート] 電子書籍プラットフォームのアクセシビリティーの現状 (2012年12月時点)

2013年5月 2日

投稿者:中根雅文

この記事は、AccSellメールマガジン第8号 (2012年12月26日発行) に筆者が寄稿したものだ。先頃iOS用のKindleがVoiceOverに対応したことで状況は大きく変わったが、それ以前の状況を知る上で多少なりとも参考にしていただけるのではないかと思い掲載する。

なお、文末に「追記」として、本稿執筆時以降の状況の変化などを中心に補足しているので、併せてご覧いただきたい。

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AmazonのKindle Storeが日本でもサービスを開始し、注目されることが増えてきた電子書籍のプラットフォームだが、そのアクセシビリティ的な側面についてはあまりまとまった情報がないのが現状だ。本稿では、この分野で先行するアメリカのメジャーな電子書籍プラットフォームについて、アクセシビリティに関する現状を筆者が把握している範囲でまとめる。なお、以下に記述する内容は、いずれも2012年12月時点で筆者が聞き及んでいる状況である。また、本稿ではアクセシビリティに関することを中心に記すので、これらのプラットフォームの一般的な使い勝手などについては、他のレビューなどを参考にしていただきたい。

アメリカの主な電子書籍プラットフォーム

アメリカでコンテンツ数やユーザー数などでそれなりに規模が大きく、「メジャー」といってもよい電子書籍プラットフォームとしては、以下の4つが挙げられる。

  • Kindle (Amazon)
  • Nook (Barns And Noble)
  • iBooks (Apple)
  • Google Play Books (Google)

この他にもいくつかのプラットフォームがあり、中には一定のアクセシビリティが確保されているものもあるようだが、本稿では上記4プラットフォームについて記す。

Amazon Kindle

Kindle Storeで販売される電子書籍の場合、出版社などのコンテンツ供給者が同意した場合に、端末側で合成音声による読み上げを許可することを示すフラグを立てることができる。 (以下「TTSフラグ」と記す。) TTSフラグが付けられているコンテンツの場合、特定の端末上で、そのコンテンツを合成音声を用いて読み上げさせることができる。

音声読み上げに対応している端末だが、正式にはKindle Keyboardと呼ばれる2世代前の端末と、Windows環境で動作するクライアント・ソフトウェアのKindle for PCのTTS対応のバージョンのみである。

Kindle Keyboardは日本では未発売の端末だ。ただし、Amazon.comから直接購入することは可能だ。この端末の場合、設定を変更することで端末の操作メニューなども音声化され、全盲の視覚障害者でも主な操作については独力で行うことが可能となる。

一方Kindle for PCは、一般に配布されているバージョンではTTSフラグには対応しておらず、対応したKindle for PC with Accessibility Pluginを入手する必要がある。しかし、同ソフトウェアのダウンロードページにアクセスすると、日本からはダウンロードできない旨のメッセージが表示される。どの国からであればダウンロードできるのかという情報は、筆者が知る限り公開されていないが、アメリカやその他のダウンロード可能な国からアクセスするなどしなければ入手できないのが現状だ。

KindleにはiOS用とAndroid用のアプリケーションも存在する。しかし、これらはいずれもTTSフラグには対応していない。

TTSフラグに対応した端末で、TTSフラグが付与されたコンテンツを閲覧した場合だが、「とりあえず読み上げはできる」というレベルの状況だというのが筆者の印象だ。具体的には、任意のページに移動して、そこから読み上げを開始させれば、ちゃんと読み上げはしてくれる。しかし、できることはこの読み上げ開始の操作と停止の操作、読み上げ実行中の一時停止と読み上げ再開くらいだ。単語単位、文字単位でテキストの内容を確認するようなことはできない。そのため、小説などをよむのには問題はないといってよいと思うが、例えば学術資料を参照して詳細に検討したいとか、分からない単語の意味を調べたいので綴りを確認したいといったようなことには対応できない。

なお、Kindle KeyboardもKindle for PC with Accessibility Pluginも、内蔵している音声合成エンジンは英語用のもののみのため、英語以外のコンテンツの読み上げには対応していない点に注意が必要だ。

また、最近発売されている端末についてだが、Androidベースの端末については、晴眼者の力を借りればアクセシビリティ機能を有効にすることができ、その状態であれば一定の読み上げは可能だということだ。しかし、正式にはこれらの端末でのアクセシビリティ・サポートについては情報が提供されていない。今後、これらの端末で採用されるAndroidが、よりアクセシビリティ機能の高いものになった時に、何らかのアナウンスがされるのではないかという予想をしている人もいるが、実際にどうなるかは不明である。また、その場合もAndroidに標準で日本語対応の音声合成エンジンが搭載されるようにならないと、日本語コンテンツの読み上げはできないものと思われる。

Nook

Nookも、Kindle同様に専用端末が存在する。しかし、専用端末には特にアクセシビリティ対応の機能は搭載されていないようだ。一方、2012年12月にリリースされたiOS用のNookでは、読み上げと拡大表示に対応したということが発表されている。

iOS用のNookだが、日本のiTunes Storeからは入手できないようだ。そのため筆者は試すことができていないが、アメリカのポッドキャストなどから得られた情報によると、iOS用のNookはiOSのアクセシビリティ機能をそのまま活用するように設計されているということだ。したがって、例えば文字単位、単語単位の読み上げなども、iOSの読み上げ機能をそのまま使うことで実現されているものと思われる。また、対応する点字ディスプレイを接続したiOSデバイスであれば、点字表示も適切に行われる可能性が高いことが考えられる。

iBooks

iOSデバイス上で動作するアプリケーションとして提供されているiBooksは、筆者が試した範囲ではアクセシビリティが高い形で実装されている。残念ながら有料で配信されているコンテンツの場合にどうかは試すことができていないが、無料で配信されているコンテンツについては、VoiceOverを使って問題なく読むことができることを確認している。iBooksの場合も、点字ディスプレイへの表示ができる可能性が高いと考えられる。

Google Play Books

これまでに筆者は、iOS用のPlay BooksとAndroid用のPlay Booksを試したことがある。このうち、Nexus 7 (Android 4.2) 上でAndroid用Play Booksを起動した場合には、コンテンツの読み上げができることを確認している。ただし、これもiBooks同様、無料で配信されているコンテンツのみでの確認で、有料コンテンツの場合にどうであるかは確認できていない。なお、文字単位、単語単位での読み上げが可能かどうかという点など、詳しい動作については検証できていない。

Android 4.0 (AUのHTC J) 上の場合、読み上げに関する設定はあるのだが、筆者が試した範囲では読み上げを実行することはできなかった。また、iOS用のPlay Booksでは、読み上げはできないようである。

日本の状況

日本においては、多数の電子書籍プラットフォームが存在しているが、最後に2012年に注目されることが多かったAmazon Kindleと楽天Koboについて、簡単に触れておくことにする。

まず、Kindleだが、前述の通り、現状では日本語の読み上げを実現している環境は存在しない。また、アメリカのAmazonでは各コンテンツのTTSフラグの状況についてコンテンツごとの詳細情報のページで示されているが、日本のAmazonにおいては同様の表示が存在しない。そのため、今後もしKindleが日本語の読み上げに対応した場合でも、日本のKindle Storeで販売されているコンテンツの読み上げはできないという状況になることが危惧される。

一方楽天Koboだが、販売されている端末にアクセシビリティ関連の機能が搭載されているという話は聞かない。また、先頃リリースされたAndroid用の閲覧アプリケーションに関しても、筆者が試した限り、TalkBackで利用することは難しそうな印象だった。

まとめ

以上、駆け足で見てきたように、アメリカにおける電子書籍プラットフォームにおいては、ある程度のアクセシビリティが確保されているのに対して、日本はこの点については出遅れているという印象だ。今後、日本においてどのプラットフォームが普及し、コンテンツが充実したプラットフォームがどれになるのかという点については2013年以降に徐々に明らかになっていくことだろう。日本の場合、プラットフォームによってコミックなどの画像中心のコンテンツに強いもの、小説などテキスト中心のコンテンツに強いものなど、プラットフォームごとに特徴がある形で各プラットフォームが成長していくことも考えられる。そのため、やみくもにアクセシビリティに対する取り組みを加速させるように要望するというのは必ずしも得策ではなく、普及状況なども踏まえてアクセシビリティ確保のための要望をしていく必要がありそうだ。

とはいえ、そもそもどういったことが可能なのかを知る上でも、この分野で一歩先を行っている印象があるアメリカの状況を知っておくことは有益だろう。今後も、折に触れて海外の状況を紹介していく予定である。

[中根 雅文]


追記

  1. 日本のAmazonでは、今もTTSフラグに関する情報は提供されていない模様だ。有料の書籍を購入する場合、書籍の冒頭部分が無料で提供されているサンプル版を入手すれば、ある程度の判断は可能だと思われる。しかし、サンプル版は読み上げ可能であっても有料で購入したものは読み上げできないというようなことが絶対にないのかということははっきりとはしておらず、この点に関する改善が求められる。
  2. iBooksについて、日本のiTunes Storeでも有料の書籍の提供が始まったので、実際に試してみた。読み上げは可能なものの、おそらくページが切り替わる部分前後で行の読み飛ばしが発生するという問題があり、実用的な読書環境とはいえないのが現状だ。なお、この現象は縦書きの書籍のみで発生するという情報もある。
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