[ソフトウェア レビュー] Window-Eyes 8.4 日本語版

2014年5月 2日

投稿者:中根雅文

Windows用のスクリーン・リーダー、Window-Eyesを開発、販売する米国GW Micro社は、4月21日、Window-Eyes日本語版をリリースした。本稿では、同ソフトウェアの簡単なレビューをお送りする。

レビュー環境

レビューは、筆者の以下の環境に、Microsoft Officeユーザー向けに提供されているWindow-Eyes日本語版の最新版、Version 8.4をインストールして行った。

  • OS: Windows 8.1 Pro 64bit Edition
  • ハードウェア: パナソニック、レッツノート CF-AX3
  • Microsoft Office 2013

なお、この環境には、他にJAWS 14.0日本語版およびNVDA日本語版 2014.1JPもインストールされている。

インストール

インストーラーを入手し実行すると、しばらくして「「音声ガイドと共に設置ソフトウェアを読み込みます。しばらくお待ちください。」という音声が聞こえる。どうやら「install」または「setup」に「設置」という訳語を当てているようだ。この時点で、翻訳のクオリティーについてそこはかとない不安を感じる。

このとき聞こえる音声は、比較的高品質と思われる合成音声だ。しかし、Window-Eyesの読み上げでこの音声が使われるわけではないようだ。

しばらくすると、インストーラーが起動し、読み上げが始まる。このときに使用される音声は、筆者の環境ではMicrosoft Harukaだった。Microsoft Harukaは、Windows 8以上に標準搭載されている音声合成エンジンだ。

やはり標準搭載されているスクリーン・リーダー、Narratorでも、デフォルトではこの音声合成エンジンが使われるが、Narratorの場合と比較して、読み上げられた内容は聞き取りづらいように感じる。

この時点で、インストーラー (Window-Eyes的にいえば「設置ソフトウェア」) を音声化するために、Window-Eyesが起動されている。しかし、この段階では多くの機能の仕様が制限されているようで、あくまでもインストーラーの音声化のためだけに使われるようになっているらしい。

インストーラーが起動すると、まずインストール時の設定を自動で行うかどうかを尋ねられる。ここで「はい」のボタンを選択し、スペースキーまたはエンターキーを押すと、続いてライセンス契約が表示され、同意が求められる。ライセンス条項を読み上げさせることは可能なものの、やはり正しく理解するのは難しい印象の音声だ。

この画面で「同意」を選んで「次へ」を押すと、あとは自動的にインストール作業が行われる。

インストールが完了すると、Java Access Bridgeのインストールのための画面が表示される。ここで、Java Access Bridgeをインストールするためのボタンを押すと、このコンポーネントが自動的にインストールされる。

このとき、「GW Access Bridge」が云々、というメッセージが読み上げられるのだが、「ゴールデンウィーク アクセス ブリッジ」などと発声される。

この後、PCの再起動を促すダイアログが表示される。PCを再起動すると、インストールは完了だ。

初期設定

PCを再起動して初めてWindow-Eyesを起動すると、「自動スタートウィザード」が起動される。ここで音声の読み上げ速度、句読点の読み上げの有無、接続する点字ディスプレイの設定などを行うことができる。ただ、とりあえずは初期値のままでも問題はなく、また後からこのウィザードを実行することも可能なので、ここでの設定については、あまり気にする必要はないだろう。

音声の設定

前述の通り、インストール直後に使用される音声は、日本語を理解するのは難しく感じてしまうような品質だ。そこで、どのような音声設定が可能なのかを確認してみた。

CTRL+\を押すと、Window-Eyesの設定などを行うことができるウィンドウにフォーカスが移る。このウィンドウには、各種設定を行うためのツリービューが表示されている他、その他Window-Eyesを制御するために必要なメニューバーも表示されている。

設定のツリービューの最後の項目に「ディバイス」という項目がある。上下矢印キーを使ってこの項目に移動し、右矢印キーを押してこの項目を展開すると、最初の項目が「音声の設定」で、これを選択した状態でタブキーを押すと、音声合成エンジンの選択などの設定項目に移動することができる。

筆者の環境の場合、インストール直後は「Microsoft Speech Platform」が選択されていた。この場合、選択できる音声合成エンジンはMicrosoft Harukaだけだ。ここで、「SAPI」を選択すると、システムにインストールされているSAPI対応の他の音声合成エンジンを使用するように設定することができる。

筆者の環境では、JAWSと共にインストールされたドキュメントトーカを利用することができるため、ここでSAPIを選択し、ドキュメントトーカの音声を選択して、読み上げに用いられる音声合成エンジンを切り替えることができた。

音声合成エンジンを切り替える場合、まず新しい音声合成エンジンを選び、続いて「アクティブ」というボタンを押す。すると、新しい設定に切り替わる。このとき、「元に戻す」、「変更事項を維持」というボタンがあるダイアログが表示され、20秒程度以内に、「変更事項を維持」を押さないと、新しい設定は維持されず、元の設定に戻るようになっている。これは、例えば日本語環境で英語しか処理できない音声合成エンジンに誤って切り替えてしまったような場合に、全く操作できないような状況を回避するための工夫だと思われる。

読み上げの品質

音声合成エンジンをドキュメントトーカに切り替えると、読み上げられる内容がだいぶ理解しやすくなったように感じられる。しかし、少し使ってみただけでもいろいろと問題があることが分かる。

これらの問題は、設定などによって会費できるものかもしれないが、筆者が気づいたものについて以下にいくつか示す。

  • 例えば、「、(読点)」を「どくてん」と読んだり、「は」や「へ」が適切に読み上げられないなど、音声合成エンジンにテキストを渡す際に、自然に読み上げられるようにするための処理がほとんどされていないように思われる。
  • 記号類に関して、全角と半角が分かるように、例えば「半角コロン」などといちいち読み上げるため、スムースな読み上げにならない。
  • Window-Eyesのメッセージの翻訳に不自然な点が少なからずある印象で、例えば、ツリービューが開いているかどうかを示すメッセージが「縮小「と「展開済み」などとなっている。 (ちなみに、JAWSでは「クローズ」と「オープン」、NVDAでは「折りたたみ」と「展開」)

訳語については、しばらく使って慣れてくれば大きな問題ではないかもしれない。ただ、JAWSやNVDAを初めて使ったときには特に違和感なくツリービューの状態を理解できたのに対して、Window-Eyesの場合はすぐには何のことなのかが分からず戸惑った。おそらく他にも翻訳が不自然な点はあるものと思われ、直感的な利用の妨げになることが考えられる。

また、上述したような問題があるため、まとまった時間、継続的にWindow-Eyesを使った読み上げをするのは現実的ではなく、不自然な訳語に慣れる程度に長期間にわたって、このスクリーン・リーダーを使うのは容易ではないように思われる。さらに、ヘルプなどは英語のままで、これまでWindow-Eyesを一度も使ったことがないユーザーの場合は、特に困難ではないかと考えられる。

また、一部の記号の呼び名が他のスクリーン・リーダーで一般的に用いられているものとは異なっている (例: 「/」を「スラッシュではなく」「斜線」と読み上げる) という問題もある。これも慣れの問題かもしれないが、既存のスクリーン・リーダーからのスムースな移行を難しくする要因になり得るのではないだろうか。

漢字詳細読みには未対応

スクリーン・リーダーで日本語を扱う場合、最も重要な機能といってもよいのが漢字詳細読みの機能だろう。漢字詳細読みができなければ、文字を1文字ずつ確認することや漢字変換をすることができず、真の意味で日本語を扱うことは不可能だ。

Windows付属のメモ帳を起動し、Microsoft IMEおよびATOKを使った入力を試してみたが、残念ながらいずれの場合も変換候補の詳細読みはされなかった。また、1文字ずつ確認する場合も、詳細読みをさせる方法はないようだった。

点字表示

Window-Eyesには、対応する点字ディスプレイを接続することで、点字表示を行う機能もある。

筆者は、試してみることができる環境を持ち合わせていないため未確認だが、日本語の点字は正しく表示されないという情報もあり、現時点では実用的ではないようだ。

今後に期待

ここまで見てきたように、現時点ではWindow-Eyesは他の日本語対応のスクリーン・リーダーの置き換えになり得るようなスクリーン・リーダーではないといわざるを得ない。

GW Microのニュース・リリースによれば、Window-Eyesの日本語化を行ったNeo Accessは、この製品を販売しているということだ。 (本稿執筆時点で、価格については不明。) しかし、現状ではとても実用的とはいえず、もし英語版のWindow-Eyesと同等の価格で販売されているのだとすると、全く価格に見合わないものとするしかないだろう。

Window-Eyesの英語版は、JAWSと同様の高機能スクリーン・リーダーだという評価が定着している製品だ。このような高機能なスクリーン・リーダーの選択肢が日本語環境において増えることには大きな意義がある。今後、上述したような問題を解決し、日本語環境における新たなスクリーン・リーダーの選択肢となることを願わずにはいられない。

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